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 『関口初級ドイツ語講座』 (by ぴよ) 書評&語学のススメ?!

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   ここ2年ほど、語学の勉強にはまっています。朝鮮語、英語、フランス語、
  ペルシア語、中国語。本当はラテン語とアラビア語もやりたいところです。
  語学の勉強は時間を取るし、いかにも「勉強しています!」という気分に
  なるのがいいのでしょう。 (身に付くかどうかは別です。)

   最近、ドイツ語を勉強しようと思い立ちました。あのごつごつした音は
  昔から 気になっていたのです。何といったって、ヴェーバーもマルクスも
  ドイツ語で考えたり話したりしていたのだから (いや、多分フランス語や
  英語やギリシア語もいけたんだろうが)。 そこで手に取ったのが
  本日ご紹介する一冊。 『関口初等ドイツ語講座』。関口存男著。
  大学の図書館の一角に埋もれていました。1955年初版。
  驚くべきことに最近復刊されています。

   この本は一言で言って、古いです。本も古ければ文例も古いし、
  説明や解説の文章も古い。ところがそれが面白い。
  いや私にとってこの教科書の最大の魅力は、この解説の文章である
  といっても過言ではないでしょう。

  ★ 一例を挙げます。これはドイツ語の r の発音についてです。

  >  「日本人にとって一番易しいのは舌先を振動させる、
  >  いわゆる江戸っ子の巻き舌です。
  >  これなら東京のした町に生まれた人には大抵できるはずです。
  >  『何だってべらんめえ・・・』というときの 『ベランメー』は
  >  ドイツ語に移せばまさに berammeh! で、
  >  そのうちに段々と酔いが回って来て、クルッとケツをまくって、
  >  手拭を左肩へ放り投げ、右拳でヒョイと鼻を擦って
  >  ベランメー!と怒鳴る時には、berrammeh! と、
  >  r は相当景気よく震えるでしょう。
  >  みなさん、ちょっとやってみませんか?」

  「クルッとケツをまく」るためには着物を着ていないといけませんね。
  別に大したことではないんですが。

  ★ もう一例。 ch の発音について。

  >  「例えば楽屋で女優さんが顔作りをしている。
  >  そこへ召使いが花束を届けに来る。
  >  女優はそれを受け取って『誰なの?』と問う。
  >  召使いは『そこに名刺が着いております』という。
  >  言われて女優は花束についている名刺を一目見る。
  >  彼女の無心な態度はたちまち一変し、
  >  まず花束を抱くようにして胸に押し付けながら、
  >  深く胸を膨らませ、さて憧れの瞳を天に向けて
  >  その次に何というか? Ach! という。」

  はあ、女優さんが胸を膨らませて・・・
  一体どなたからの花束だったんでしょうね?
  それにしても宜しかったですね。
  というか結局何を説明するための文章なんでしたっけ?

  ★ さらにもう一例。不定冠詞について。

  >  「つまり、昔ゆかしい窮屈な語尾を引きずっているドイツ語も、
  >  上記の3箇所ではついに語尾をかなぐり捨てて英語と同一線上に
  >  零落してしまったわけです。ドイツ語のために多少遺憾の意を
  >  禁じ得ないものがありますな」

  と、こんな感じで進んでいきます。隅々までこんな感じです。
  形容詞の説明を読んでいると突然 「ようござんすか?」と尋ねられたり
  します。味噌と糞とが一緒にされたりします。架空の読者が出て来て、
  作者と会話していたりします。

  念のために断っておくと、この本は全くきちんとした教科書です。
  シンプルな作り、厳選された単語、丁寧な解説。だからといってドイツ語が
  簡単になるわけではありませんが、大学1回生でフランス語を学んだとき、
  こういう教科書で学びたかったなあと思います。

  昔、祖父母の家に「暮しの手帖」という雑誌が山と積まれていました。
  まだ花森安治が編集長だった頃のもので、独特のお洒落な雰囲気と
  丁寧な文体が好きで、小学校に上がる前から愛読していました。
  (一番好きだったのは『ミセス=マナーズの楽しいマナー』というコーナー
  でした。その割に私は行儀が悪いですが。) この教科書の解説文は、
  その文章に少し似ています。あの古い紙の匂いのする、もう話されない
  言葉たち。

  これからドイツ語を学んでみたい方、大学1回生でドイツ語を選択された方、
  江戸っ子の好きな方、思い出し笑いをしたい方におすすめの一冊です。
  最近復刊されたものが手に入りやすいですが、あの文体を味わいたい方は
  是非苦労して、1955年出版のものをお探しになってみて下さい。
  大学の図書館あたりにならあると思われます。

  (※ただし、この作者は陸軍幼年学校出身者でして、そのため例文に
  腹立たしい文章が時々現れます。 「日本に住んでいる全ての人間は
  天皇を愛し尊敬する」とか。文末に nicht とつけておきたいところです。)

                                            (了)
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  【PeaceMedia】編集部より注記:
  (この書籍でドイツ語をマジメに学んでみようと思われる皆さまへ)
  ぴよさんが述べられたように、本書は大変に魅力的ですが、改訂版でも
  「新正書法」には対応していません。この点について予めご了解ください。


 構成:【PeaceMedia】/(C)ぴよ 2007年3月  :


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